No fair :4

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 魔法使いとして戦うのは・・ジンくんとの一件以来か・・。

「《氷槍》」

 右手を振って繰り出したのは、研ぎ澄まされた氷の槍。青白い光を放ちながら、眼前の敵めがけ、牙を剥く。
 対し、相手はすぐに手を打ってきた。



 氷の刃に、熱い炎のくちづけを。



 正面からの一撃は、彼女の口から紡ぎだされた言葉に解かされ、水蒸気となって立ち消える。
 煙る向こう側で、携帯を片手に、彼女は微笑んだ。
 
「なぁに?その程度じゃ、あたしを傷つけることはできないわよ」
「・・だろうね。ほんの小手調べだから、期待してて」

 挑発に乗り、こちらも不敵な笑みで返す。
 姿勢で負けるわけにはいかなかった。
 そう・・全力ではないけれど、今の攻撃はそれなりに力を入れたつもりだった。
 やはり、今のボクでは目の前の敵──灰音リコには敵いそうにない。
 これは完全に出来レース。
 こちら側の都合で決着を引き伸ばしている、時間稼ぎな一戦。
 そんな少しの焦りを嘲笑うかのように、彼女は言う。

「ええ、期待してるわ。だって、あなたは魔法界でも天才と名高い、トップクラスの魔法使いですものね」
「・・お褒めに預かり、光栄・・と、言うべき?」
「──次期王候補の黒衛仁に対抗できるのは、あなただけと、灰の一族は認めているわ」
「へぇ・・」

 垣間みえた、灰の一族の思惑。
 狙いは・・ジンくん。ひいては、魔法界の王制度に反発して、といったところか・・。
 魔法使いは実力勝負。魔力の少なさはそのまま、魔法界での地位をも表す。
 陰ながらに虐げられ、過酷な環境に追いやられた積年の恨みを晴らすため、決起したのだろう。
 とはいえ、正面切って挑んでも負けは見えている。
 そこで、強力な手駒として白羽の矢が立ったのが・・ボク。

「つまり、灰の一族はボクが欲しいってこと?だから、キミは小細工して、ボクが困るよう仕組んだんだ?」
「・・策としては、悪くないでしょ。実際、あなた、困ってるし」

 赤い目が楽しそうに細まる。
 悪くない、けど・・かなり安直な考えだ。 

「無理やり押さえつけるようなやり方に、ボクが賛同するとでも思う?」

 まるっきりボクという人間を解っていない。完全にやり方を間違えている。
 まぁ・・頭を下げて頼まれても引き受けたりしないけどね。
 なにより・・。

「・・キミはセイを裏切った。彼女を傷つけた者を、ボクは決して許さない」

 ああ・・こんなセリフ、まさかボクが吐くようになるなんてね。
 我ながらに、感心してしまう。
 恋は盲目。とは、よく言ったものだ。

「──あなた。セイが好きなの?」

 ボクの言葉の端々に漂う、セイへの特別な想いに気づいたのだろう。灰音が目を瞬かせる。
 ちらり、と遥か後方にある立方体型の防御壁を見た。
 中ではキャンバスを前に、懸命に絵を描く愛しい少女の姿がある。
 幸いなことに、この場でのやりとりは当人はもちろん、他の誰にも聞こえない。
 ボクは大きく頷いた。

「好きだよ。気づいたのは、今さっきだけどね」

 彼女のことを好きになったのはいつからだろう・・。黒埼家にお世話になって、いろいろなやりとりをしていくうちに?
 ──いや。
 きっと、最初から・・初めてあの紅い瞳を見たときから、すでに気になっていたんだ。
 他人に興味が薄かった自分が、なにをするにも無気力だった自分が、初めて、自分から関わりあいたいと思ったのが彼女。
 怒って、泣いて・・素直な反応がとても愛おしい。
 思い返してみれば、ボクとのやりとりはいつも、怒るか泣くかだったね。願わくば、心からの笑顔を見てみたいな。
  と、思いを巡らせていると、灰音が小さく呟いた。

「・・よかった」
「え?」

 聞き間違えかと思い、問い返そうとしたけど、できなかった。



 紅蓮の炎を宿し、赤い爪が空を掻く。



 素早く携帯に文字を打ち込んだ彼女の攻撃がボクを襲う。
 意識が集中してなかったせいで、防御が一寸遅れた。決定的な一打にはならなかったものの、顔に、腕に、熱い痛みが走る。

「っ・・」
「案外、甘いのね。敵を前に、油断しちゃ駄目じゃない」
「・・ご忠告ありがとう」

 そうだ。忘れてはいけない
 目の前の彼女は敵。
 セイが絵を完成させるまで、倒されるわけにはいかないんだ。
 多少の引っ掛かりは残るものの、意識を戦いに集中させる。
 灰音の魔法は携帯がベース。活字を打ち込んで、それを口に出して詩うことで発動できる。
 つまり、携帯を壊してしまえば、攻撃の手を封じることができるはずだ。
 標的を携帯に変え、もう一度、同じ魔法の呪文を唱えた。

「《氷槍》」
「また、同じ手?なんか、がっかり。芸がないのね」

 彼女の反撃に解かされた氷が水蒸気となって、辺りを白く煙らせる。
 その一瞬の隙に、地を蹴った。
 灰音の眼前まで近づき、携帯に手をかざす。

「!?」
「《雷巳》」

 手のひらから現れたのは、雷を纏った青白い蛇。携帯に絡みつき、電気をほとばしらせる。
 帯電した機械の末路は・・。
 けれど、彼女の手の中の携帯は変わること無く、文字入力の画面を映していた。
 ボクの攻撃をさらりと受け止めた彼女は、後方へ飛んで距離を取る。
 
「狙いはいいけど・・大事な触媒、そう簡単に壊されるような状態にしてるわけないでしょ?」

 小さく肩をすくめ、灰音が微笑んだ。
 やはり・・一筋縄ではいかない・・。
 となると、頼みの綱はセイの絵だけ。
 ボクの読みが正しければ──。
 思考は中断される。同じ詩を耳に、地を蹴って大きく後方へ宙返りして避けた。
 次の瞬間、焼け焦げた爪痕が、ボクの居た場所を抉る。

「考え事なんて、案外、まだまだ余裕あり。かしら」
「・・そうでもないよ。キミの能力はなかなかにすごいと思ってる」

 触媒を壊せないとなると、かなり厄介だ。攻撃の元を断てない。
 標的を彼女自身に絞るしかないとなれば、どうあっても、直接攻撃でねじ伏せるしか無く・・けど、今のボクの魔力では、敵わない結果。
 今はひたすら、時間を稼ぐしか無い、か。 



 影に潜みし茨、四肢を囚えて離さない。



「っ・・!」

 気づいた時にはもぅ、手遅れだった。
 背後の影から現れた茨のつるが、手に足に絡みつき、身体の自由を奪われる。
 ぎりぎりと絞め上げられ、つるの刺が身体に食い込んだ。

「忠告したのに・・隙だらけね」

 言霊の魔女が余裕の笑みを見せる。
 的を射た言葉に、ぐぅの音もでない。本来のイロを失っただけで、こうも五感が鈍るなんて・・小さな舌打ちだけが口から漏れでた。

「さて・・どうしようかな?今のあなたは囚われの王子様。煮て喰おうが焼いて喰おうが、あたしの自由ってわけよね」

 クスクスと笑いながら、ボクの顎に手を掛ける。

「灰の一族に協力するなら、助けてあげてもいいのよ。どうする?」
「死んだってお断り」
「・・言うと思った。弱体しても、プライドだけは超一流のまま、か」
「好きな人になら、幾らでも協力してあげるけど、キミは違うからね」
「残念」

 細い指が輪郭を撫で、遠のいていった。
 携帯を持つ手が文字を刻む。
 こんなところで終焉を迎えるなんて思わなかったけど・・頼れる友人が居て、最後に、最も人らしい感情が芽生えて、それなりにイイ人生だったのかな。
 そんなことをぼんやり思い、覚悟を決める。



 偽りのイロを纏った王子様。
 振り下ろされる、死神の鎌。
 行き着く先は──奈落の底。



 鋭い刃が襲い来る、まさに、その瞬間。
 背後から、膨大な魔力が溢れだし、手足に絡んだ茨を消し去ると、優しくボクの身体を包み込む。
 じんわりと身体に浸透してゆくそれは、懐かしくも馴染み深い・・ボクの魔力。
 髪のイロは黒から銀へ。
 瞳のイロは赤から蒼へ。
 本来纏うべきイロを取り戻したのが分かった。

「・・一か八かだったけど、読みが当たったな」

 何事もなかったかのように、元の姿に戻ったボクを見、灰音に焦りの色が浮かぶ。

「なんで・・」
「魔画には、眞画という別の意味がある。描き手の心一つで、命を奪いも与えもするって、古い書物で読んだ憶えが、微かにあってね」

 背後を見れば、驚きで目を見開いている彼女が居た。
 悪い魔法使いの魔法を解くのは王子様。と、相場が決まってるけど・・逆があってもいいよね?
 さぁ、今度はボクの番。
 愛しいキミを灰色の魔女から守ってあげる。

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