「・・それが、恋であると?」
「まぁ、一概にそれだけとは言わぬがな。どうせなら、ロマンチックに実感出来る方が良いではないか。ほれ、気持ちも若返るしのぅ」
いえ、ボクは実年齢も若いので・・という言葉は、さすがに飲み込む。
他人との繋がり・・恋ねぇ。
どこかくだらなく感じるのは、マリス様の人柄のせいだろうか。とてもじゃないけど、素直に受け入れる気になれない。
心無しか頭痛もしてきた。それ以上に、右手がズキンと痛んで・・ジンくんの本気に傷ついた腕は、もぅ、ほとんど治りかけている。
あのとき・・多少、手加減したとはいえ、放った魔力そのままを綺麗に返した彼の実力は、以前とは全く違っていた。
あんな短時間で、ここまで成長できるなんて・・それほど、アリスを愛していたということか。
他人を想う気持ちが、人を強くするのは確かなんだ。
だからといって、ボクまでもが恋しなくてはならない理由にはならないけど。
「ふむ・・わらわの占術によると、なかなかに良い出逢いがありそうじゃぞ?」
いつの間に占いなどしていたのか、ボクを顔をまじまじと見つめ、ニッコリ微笑むマリス様。
いや、正しくは・・“ニンマリ”?
──やはり、面白がっているだけとしか・・。
疑いを込めて、鋭い視線を送って見ても、彼女は全く意に介さなかった。
それどころか、予想外に強引な手段に打って出る。
「御託を並べるより、身を以て知るが早かろう」
「?」
「去ね」
やはりニッコリ愛らしく微笑んだ先代魔女王は、先刻、アリスたちを人間界へ送り出したのと同様の──それ以上に強力な魔力を、ボクに向けて放つ。
「・・・・・」
気がつくと、見覚えはあるけれど、違う場所に移動していた。
ボクはボクの住処から叩き出されたんだ。
小綺麗なマンションの一室。設えられたもの、雑貨などの全てはボクが生活していたそのままに、不自由なく同じではあったけれど、ここは魔法界ではなく・・。
「・・人間界?」
なにが“良い出逢い”だ。
人間との出逢いに、繋がりに、どれほどの価値があるというのだろう。
魔力を持たず、魔法の使えない、低能な存在から得るものなどあるわけがない。
マリス様には悪いけど、帰らせて貰おう。
あっさり舞い戻れるものと考えていたボクが甘かったことを、思い知らされる。
「・・あのババァ──」
ご丁寧にも、彼女はボク専用の魔法界への通路を塞いでくれていた。
つまりは、元居た世界には戻れず、人間界に留まることを余儀なくされたということ。
腐っても、稀代の前魔女王といったところか・・その能力は計り知れない。というより、本当に未知数だ。妖怪並みじゃないのか?
「なぜ、ボクがこんな目に・・」
何度目か解らない、深いため息をついて、小さく首を振る。
けれど、嘆いていても仕方ない。
こうなってしまったなら、せいぜい、状況に順応して楽しむさ。
自分で言うのもなんだけど、ボクは転んでただで起きるような、しおらしい性格をしていなかった。
「そうだな・・手始めに、彼らと仲良くしてみようか?」
ボクを見て、どんな反応をしてくれるだろう。
彼女も彼も、きっと驚きながらも受け入れてくれるに違いない。
明日から、新しい生活が始まるんだ。
そして、新しい出逢いも・・。
悔しいけど、マリス様の占いはやっぱり正しくて、ボクはつくづく、彼女がただ者ではないことを知るのだった。