02. そういうトコも好きなんだけど

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「早いもん勝ち言うことで、おれが下のベッド。翔は上な。クローゼットは二つあるから、それぞれ使うとして・・あとは、ま、適当に」


 備え付けのそれらを差し示し、空夜がさも当然のように主導権を握って割り振りする。
二人部屋というだけあって、広さは12畳ほどもあり、それなりに快適な空間。
 なにより、私にとって有り難かったのは、部屋にバストイレ完備だったこと。
 よかった・・共同の大浴場とかだったら、毎回、銭湯にでも通わなきゃならないところだ。そんなの資金的にも、行動的にも危険すぎる。


「飯 は食堂で定められた時間に食う決まりやけど、外食やら買い食いもオッケー。その場合、完全自腹や。洗濯は一階にコインランドリーあるし、掃除機も貸し出し てるみたいやけど・・ドアノブにこの“洗濯・清掃希望”のプレート掛けて汚れ物出しとけば、専門の人らがしてくれるらし。いわゆる、ホテルみたいなシステ ムなん」


 部屋の中を見回せば、テレビにDVD付きビデオ、冷蔵庫、湯沸かし器・・そう、まさにホテル並みの電化製品が設置されていた。
 ふーむ・・さすが私立。至れり尽くせり・・。


「ちゅうか・・その馬鹿でかいカバンも宅急便で送ってまえば良かったのに・・。荷物届くの遅れたら遅れたで、着替えぐらい貸すで?」


 後生大事に抱え持ったカバンを見、彼は苦笑した。
 そんな危険な真似ができるか・・。
 このカバンの中身だけは、人知れず、確保しておかなくてはならないというのに・・普通に荷物として送ったら、誤って人目に触れてしまう可能性があるじゃないか。


「あー・・まぁ、意外に早く宅急便つくものだなぁと」
「最近の宅急便は優秀やからな。とりあえず・・荷物片付けるん?」
「もちろん。段ボールのままじゃ落ち着かないし・・」
「そか。手伝い必要ならするけど、一人の方がやりやすいやろか?」
「──うん」
「んじゃ、おれ、適当に知り合いんとこ遊びに行って来るわ。片付け頑張り」


 見た目は軽い感じだけど、意外に空夜は、こういうさり気ない気配りができるいいヤツらしい。


「ありがと。いってらっしゃい」


 今にも去ろうとする背中にそう言うと、彼は少しだけ照れた風に笑い、


「はは・・いってらっしゃいって、なんかええな。うん、いってきます」


 元気に応えて、部屋を後にした。
 さて・・空夜が戻って来ないうちに、手早く片付けてしまおう。
 まずは大きなカバンを開く。中には予備のサラシと替えの下着や生理用品なんかがぎっしり。
 最大にして最高にヤバい代物・・これはこのままカバンにしまっておくのがいいか。専用の南京錠をロックすると、鍵にシルバーチェーンを通し、首から下げた。
 服は当たり障りのないところを選んで詰め込んだし、足りない分は翔のを拝借。日常品もシンプルな物をわざわざ買いそろえ、化粧水なんかはユニセックスものに変更。
 片付けは、案外に早く終わる。
 まぁ、たった一ヶ月の生活用品。そう、物数が多くないから、当然と言えば当然。
 時計を見れば、まだ、夕食には間があって・・お茶でも入れて、テレビ見てようかな・・。って、茶葉とかあるんだろうか・・。
 ごそごそと台所の棚を探る。そこには、インスタントコーヒーに粉末ミルク、砂糖、日本茶、紅茶各種が・・どこまでも気の回ることだ。さすがにお茶菓子はないけど・・。
 感心しつつ、持ち込んだ自分専用にカップにティーバッグを落とし、お茶の準備していると、部屋のドアをノックする音が耳に届いた。
 んん?誰だろ・・空夜なら、わざわざノックなんてしないだろうし・・。


「はい?」
「・・甲斐谷だが」


 聞き覚えのある声と名前に、ドアを開く。
 今朝方お世話になった先輩がいた。
 あー・・確か、寮長だって言ってたから、様子見に来たのか。しかも、この人、生徒会長でもあるんだよな・・。
 空夜が初っぱな洩らした言葉を思い出し、つくづく目の前の人の有能さに圧倒された。


「・・椋本?」


 黙ってジロジロ見つめてしまったのを不審に思ったのか、先輩が不振な目を向け、首を傾げる。
 やば・・かなり挙動不審だ。


「・・こ、コンバンワ。朝は有り難うございました」
「ん・・今晩和。少し、時間いいか?きみ、一日遅れで入ったから、寮生活についての説明がまだだろう」
「えーと・・一応、空夜──同室の小笠原くんに聞きましたけど」
「小笠原?そうか・・きみの同室は、あいつか。それで、なにを聞いた?」
「食事の時間と洗濯、掃除のことですかね」
「・・それでは、全然足らない」


 やれやれと苦笑する先輩。


「・・集団で生活する以上、ちゃんと決まりを知り、従ってもらわねば困る。そのためにも、ゆっくり話せる状況に身を置かせてくれると助かるんだがな」


 暗に最低限の礼儀として、部屋の中へ通せということだろう。
 それには私も賛同でき、慌てて、招いた。


「すみません、どうぞ・・。あー、なんか飲みます?自分は紅茶なんですけど」
「きみと同じ物でいい。砂糖は抜きで」
「らじゃ。てか・・ココの寮ってすごい設備いいんですね」
「──私立校だからな。あらゆる方面から援助があるんだ」
「なるほど・・」


 まじで設備良過ぎよ。うちの実家より快適じゃないの?そのくせ、奨学制度で学費ばかりか、寮費も免除だなんて・・。
 一般校通いの私としては、かなり羨ましい状況だけど・・他でもない、翔自身の才能と努力が評価されたってこと。
 うん、やっぱ替え玉して正解かも。身内として、喜ばしいことと応援してあげないとね。


「では、早速・・食事と洗濯、掃除については聞いたんだったな。寮の門限は七時。やむを得ない理由で過ぎる場合は、寮長である俺に連絡を入れること。これが連絡用のケー番。きみのも教えてくれないか?登録しておく」
「ぁ・・は、はぃ・・」


 お互いに携帯を取り出し、ケー番を登録し合う。
 翔には女の子らしくない色だと言われたアクアブルーのそれが、今、この場面で小さいながらも、男としての私を救うことになろうとは・・自分の趣味を賞賛したい。
 それにしても・・個々の都合で入って来る連絡に、いちいち対応しなきゃならないなんて、寮長って大変よね・・せめて、私は手を煩わせずに済むように気をつけよう。


「あと・・奨学生限定でやってもらわねばならないことがある。今年の対象者はどうやらキミだけのようだから・・少し、忙しいかもしれない。覚悟してくれ」 


 へ?なにそれ・・初耳よ?


「はぁ・・僕はなにをすれば?」
「主に寮生三年の補佐だ。食事時間になったら呼びに行ったり、用を申し遣ったり・・」
「それって・・平たく言えば、パシリ?」
「・・そういう言い方もあるな」


 いや、補佐なんて小綺麗な言い方より、そっちのがしっくりくると思いますよ?
 私は余程、素直に胸の内の不快感を表情に出してしまったのだろう。
 甲斐谷先輩は幾分か取り急ぐ風に、その実というものを口にした。


「奨学生は色々と免除される、実質的に大きな得があるからな。そればかりが目立っては、羨望と好奇の目を向けられ、陰湿な苛めに発展する怖れがある。人心的なバランスをはかるための・・これは、あくまで防護措置なんだ」
「つまり・・パシリなのは見せかけ?」
「ある程度は役立ってもらうが・・無理な注文にまで従順になることはないということだ。どうしても嫌だったら断って構わない。そこで文句が出たり、無理強いされるようなら、逐一、俺に報告しろ」


 まぁ・・これだけ優遇されるからには、なにか裏があるだろうことは覚悟していたけど・・パシリかぁ。
 女であることを隠しつつ、パシリ生活・・先輩の人数が多ければ多いほど、あらゆる角度で危険が伴う。


「ええと・・ちなみに寮生三年ってどれくらいいるんです?まず、甲斐谷先輩と・・あとは・・?」
「俺を含めて四人だ」
「あれ・・意外と少ないですね?」
「三年ともなれば、制約とかが煩わしくなるらしくてな・・あまり残らないんだ」


 門限七時だもんね。
 夜遊びしたい盛りに、中学生かって感じだし・・納得。


「ふむ・・どうせなら、挨拶回りしておくか?」
「あー・・甲斐谷先輩の都合がいいなら、お願いしたいですね」
「では、行こうか。俺と一緒の方が・・安全だろうしな」


 途端に表情を引き締めた先輩の様子に、一抹の不安が過る。
 と、同時に、私はまたもや先輩の腕を掴んだ。
 再び、怪訝な表情で首を傾げらる。


「またお世話になっちゃいますね・・有り難うございます。やっぱり、先輩は善い人です」


 満面に笑みを浮かべて頭を下げると、目の前の表情が初めて見る種類の柔和に代わり、やんわりと微笑まれた。


「きみのそういうところは・・好きだな」


 イケメン慣れした私にとっても、その笑顔は十分過ぎる魅力を持って襲い掛かり、不覚にも赤面してしまう。
 これが・・俗に言うところの、王子スマイルか。
 男の園・・侮り難し。

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